
お気に入りのスーツに白いカビを見つけたとき、焦ってすぐに拭き取ろうとするのは禁物です。
この記事では、スーツのカビを自宅で安全に取り除くための具体的な道具と、修復の全体像を詳しく解説します。
正しい手順を知ることで、大切な一着を生地の風合いを損なわずに蘇らせることができます。
自宅でスーツのカビを取る前に。準備すべき道具と全体像
スーツのカビ取りを始める前に、まずは必要な道具を揃えましょう。
準備するのは、洋服ブラシ、消毒用エタノール、柔らかい布、スチームアイロンです。
また、作業者の衛生面を守り胞子の吸入を防ぐために、マスクと手袋も必ず用意してください。
カビ取りにおいて最も重要なルールは、必ず「屋外」で作業を行うことです。
室内で行うと、ブラシで払ったカビの胞子が部屋中に飛散し、他の衣類へ移ったり健康被害を招いたりする恐れがあります。
風通しの良いベランダなどで、胞子を室内に持ち込まない環境を整えましょう。
作業全体の流れは、大きく分けて以下の3つのステップで構成されます。
除去:ブラッシングで表面のカビを物理的に払い落とす
殺菌:エタノールとアイロンの熱で菌を死滅させる
乾燥:陰干しで水分と湿気を完全に取り除く
この一連の流れを丁寧に行うことで、目に見える汚れだけでなく、再発の元となる菌そのものを叩くことができます。
自己流で焦って水拭きをすると、逆に湿気を与えてカビを増殖させる原因になるため注意しましょう。
💡 作業を始める前に、晴れた日の昼間など、乾燥した時間帯を選んで屋外のスペースを確保しましょう。
その白い汚れはカビ?スーツに発生する「白カビ」と「黒カビ」の見極め方
スーツの肩や袖口に、ふわりとした白い粉のようなものが付着していたら、それは「白カビ」の可能性が高いでしょう。
白カビは湿気を好みますが、繊維の表面に粉状に付着する性質があるため、初期段階であれば比較的落としやすいのが特徴です。
ウールなどの動物性繊維を餌にするため、高級なスーツほど油断すると発生しやすい傾向にあります。
一方、ポツポツとした黒い斑点が見える場合は「黒カビ」です。
黒カビは繊維の奥深くまで根を張るため、単に表面を拭うだけでは除去できません。
色素が強固に定着しており、無理にこすると生地を傷めるだけでなく、カビの根が残って再発を繰り返す原因にもなります。
大切なのは、自宅で対処できるのは主に白カビであると理解することです。
黒カビや、広範囲に広がった重度のカビは、プロのクリーニング技術でも落とせない場合があります。
まずは明るい場所でスーツをよく観察し、カビの種類と進行度合いを正しく見極めることから始めましょう。
💡 スマートフォンのライトを斜めに当てると、表面の粉状の浮きが確認しやすくなります。
ステップ1:屋外で丁寧にブラッシング。カビの胞子を払い落とす
スーツのカビ取りにおける最初のステップは、表面に付着した胞子を物理的に取り除くことです。この作業で最も大切なのは、必ずベランダや庭といった屋外で作業を行うことです。
室内でブラッシングをしてしまうと、目に見えない無数のカビの胞子が部屋中に舞い散り、他の衣類や家具に再付着して二次被害を招く恐れがあるからです。自分自身の健康を守るためにも、風通しの良い場所を選びましょう。
ブラッシングには、天然の馬毛や豚毛のブラシを選んでください。化学繊維のブラシは静電気が起きやすく、逆にカビの胞子を引き寄せてしまうことがあります。特にデリケートなウール素材には、きめ細かくしなやかな馬毛が最適です。
風通しの良い屋外にスーツを出し、ハンガーにかけて固定します。
上から下へ、繊維の方向に沿って一定の向きに優しく払います。
襟の裏やポケットの縁など、繊維の隙間からカビをかき出すように動かします。
力を入れすぎると生地を傷める原因になるため、手首のスナップをきかせて「払う」感覚で行うのがコツです。作業後は使用したブラシも屋外でしっかりと叩き、胞子を残さないように手入れをしましょう。
💡 作業後は自分の服も軽く払い、すぐに手を洗って胞子の持ち込みを防ぎましょう。
ステップ2:消毒用エタノールで除菌。生地を傷めない拭き取りのコツ
ブラッシングで表面の胞子を払った後は、繊維の奥に潜む菌を「消毒用エタノール」で根絶させます。
ウールなどのデリケートな素材は、水分や摩擦に弱いため、慎重なアプローチが求められます。
作業を始める前に、必ず「色落ちテスト」を行いましょう。
スーツの裏地や裾の内側など、目立たない場所にエタノールを少量つけ、布で軽く押さえて色が移らないか確認します。
もし色がつく場合は、自宅での処理を中断し、プロに任せるのが生地を守る賢明な判断です。
除菌の手順は、以下のステップで進めてください。
清潔な柔らかい布に、消毒用エタノールを適量染み込ませる
カビが発生していた箇所を、外側から中心に向かって「叩くように」拭き取る
強く擦るとカビを奥へ押し込み、生地を傷める原因になります。
優しく叩くことで、エタノールが繊維の間まで浸透し、効率よく除菌が行えます。
💡 布の汚れた面は常に変えながら、新しい面で叩くのが再付着を防ぐコツです。

ステップ3:スチームアイロンの熱で殺菌。50度以上の熱がカビに効く
ブラッシングと消毒用エタノールで表面の汚れを取り除いたら、次は目に見えない菌へのアプローチです。カビ菌は熱に弱い特性を持っており、50度以上の熱で死滅すると言われています。この性質を利用して、繊維の奥に残った胞子を完全に断ち切りましょう。
アイロンを中温にセットし、スチームが安定して出る状態まで加熱する。
生地のテカリや傷みを防ぐため、必ず清潔な綿のあて布をスーツの上に置く。
あて布をしてスチームを当てる、または浮かせてスチームを噴射し、高温で残った菌を死滅させる。
スチームアイロンを活用するこの技法は、除菌だけでなくカビ特有の嫌な臭いを軽減するメリットもあります。デリケートな素材の場合は、無理に押し当てず、アイロンを数センチ浮かせて蒸気だけをたっぷりと通すのがコツです。
💡 スチームを当てた直後のスーツは湿気を含んでいるため、すぐにクローゼットへ入れず熱を逃がしましょう。
ステップ4:陰干しで完全に乾燥させる。湿気を残さないのが重要
除菌やスチームを終えた後のスーツは、一見乾いているように見えても繊維の奥に水分が残っています。このわずかな湿気が残っていると、せっかく除菌したカビが再び繁殖する原因になりかねません。
カビ菌の活動を止めるためには、完全に乾燥させることが再発防止の鍵となります。直射日光を避けた風通しの良い場所を選び、時間をかけてじっくりと湿気を飛ばしましょう。
直射日光の当たらない陰干しができる場所(室内なら窓際や換気扇の下)に吊るす
半日から1日かけて、スーツ内部の湿気が完全になくなるまで放置する
脇の下やポケットの内側など、厚みのある部分を触って乾きを確認する
特にウール素材は吸湿性が高いため、表面が乾いていても芯まで乾くのに時間がかかります。内部の湿気を完全に取り除く重要性を意識し、焦ってクローゼットにしまわないよう注意してください。
💡 扇風機やサーキュレーターの風を当てると、より効率的に繊維の奥の湿気を飛ばせます。
ステップ5:仕上げのブラッシング。毛並みを整えて風合いを戻す
陰干しによってスーツの湿気が完全に取り除かれたら、最後の大切な工程としてブラッシングを行いましょう。カビの除去作業やスチームによって寝てしまったウールの繊維を、再び丁寧に立ち上げることが目的です。
この段階でウールの質感を整える仕上げを丁寧に行うことで、繊維の間に空気が入り込み、スーツ本来のふっくらとした立体感が戻ります。見た目の清潔感はもちろん、指先に伝わる柔らかな風合いもここで復活します。
馬毛など天然毛のブラシを使い、手首のスナップを利かせて繊維を逆立てるように下から上へ動かす
全体に空気が通ったら、最後は肩から裾に向かって優しく撫でるように毛並みを揃えて落ち着かせる
このひと手間を加えるだけで、カビ除去による生地のダメージを最小限に抑え、新品のような表情を取り戻すことができます。カビの不安が消え、美しい毛並みが整ったスーツは、あなたのビジネスシーンを再び力強く支えてくれるはずです。
💡 仕上げのブラッシングは、繊維の奥に残った目に見えないカビの死骸を完全にかき出し、再発を防ぐ効果もあります。
無理は禁物。プロのクリーニングに任せるべき「落とせないカビ」の境界線
自宅で対処できるのは、あくまで表面に付着した初期の白カビがメインです。もしスーツにポツポツと染み付いた黒カビが発生している場合は、迷わずプロの手を借りましょう。黒カビは繊維の奥深くにまで根を張っているため、家庭用のアルコールやブラッシングだけで完全に除去することは不可能です。
また、カビがジャケットの裏地やスラックスの裾など、広範囲に広がっている場合も自己処理の限界といえます。広範囲の汚れを無理に落とそうと、強い力で叩いたり大量のエタノールを使いすぎたりすると、生地の変色や型崩れのリスクを招きます。大切なスーツの寿命を縮めないための、冷静な判断が求められます。
さらに、目に見える汚れが落ちたように見えても、カビの臭いが取れない場合は注意が必要です。これは繊維の隙間に菌が生き残っている証拠であり、そのまま収納すればすぐに再発してしまいます。プロのクリーニング店であれば、専用の薬剤を用いた「カビ取り加工」や、特殊な水洗いで根元から菌を死滅させることが可能です。
💡 クリーニング店に出す際は、カビの箇所を具体的に伝え「カビ取りオプション」を希望すると確実です。

大切な一着を守るために。クローゼットでカビを防ぐ3つの新習慣
カビを取り除いた後のスーツは、言わば「病み上がり」の状態です。再び菌を寄せ付けないためには、日々のささやかな習慣の積み重ねが欠かせません。
まず、帰宅してすぐにクローゼットへ戻すのは避けましょう。一日着用したスーツは、体温や汗による湿気を想像以上に含んでいます。
着用後は数時間吊るして湿気を飛ばすことで、カビが好む高温多湿な環境をリセットできます。まずは風通しの良い場所に掛けることから始めてください。
次に、クリーニングから戻ってきた際の「ビニールカバー」には注意が必要です。あのカバーは運搬中の汚れを防ぐためのもので、保管には適していません。
通気性が悪いため内部に湿気がこもり、カビの温床になりやすいのです。ビニールは必ず外し、空気を通す不織布カバーへ掛け替えるのが鉄則です。
最後に、クローゼット内の密度を見直しましょう。服を詰め込みすぎると、空気の循環が止まり、カビの胞子が滞留してしまいます。
収納量は「8割」を目安に抑え、服と服の間に隙間を作ることで、空気の通り道を確保してください。余裕のある空間こそが、スーツの寿命を延ばす特効薬となります。
お気に入りの一着を長く美しく保つために、この3つの習慣を日常に取り入れてみてはいかがでしょうか。
💡 クローゼットの扉を定期的に開け放ち、サーキュレーターで空気を入れ替えるのも有効です。
